シューベルト最期の家(2)

Schubert Sterbewohnung

今回は前室を抜けて、一つ目のお部屋。ピアノや楽譜が展示してあるお部屋について書いていきたいと思います。

フェルディナント所有のピアノ

この最期の家の持ち主であったシューベルトのお兄さん所有のピアノ
6オクターブ半、ペダルは4本、ウィーン式アクション


製作された年が不明のため、実際にシューベルトがこのピアノを弾いたか否かはわからない。色々調べると「可能性はある」という表現にとどまっています。この最期の家の受付のおじさんに尋ねたところ「シューベルトはこのピアノを弾いていない」ということだったので、実際のところはどうなんでしょうか?

4本あるペダルでさまざまなニュアンスの音色をつくることができるとのこと。タッチは非常に軽く、速いパッセージや装飾音なども現在のモダンピアノを弾くそれとは全く違った感覚だそうです。
1820年代のウィーンでは若いピアノ製作者によって楽器の改良や発明が盛んに行われ、シューベルトもその新しく改良されたピアノには触れている。新しいタイプのピアノは、強い張力に耐えれるよう響板を何重にも重ねたり、鉄や牛の革で作るなどの試みを施されたものと思われるが、シューベルトは新しいタイプのピアノにも触れた上で、「古い様式のピアノ」を好んでいたと残されている。
シューベルトの好んだ古い様式のピアノは、タッチとペダリングによって演奏者はあらゆるニュアンスをつけて演奏でき、明瞭な音色、そして弱音でどれだけ豊かな表情が付けられるかということが追求されていた。シューベルトの好みを理解した上で、シューベルトの作品に取り組むと音創りに大きなヒントが得られます。弱音への意識やニュアンスを求めた音創りは想像力掻き立てられるけど、fやffに対しては悩みも生まれます。当時のピアノで高音域をffで弾いたときには、禁欲的で「打つ」ような激しい魂の叫びが聞き取れるとのことですが、現代のピアノで音のボリュームをそこに近づけるだけではそのような響きになるわけでもないし、響きの減衰スピードも違うわけですから、やはりその響きのイメージを心で感じ、現代のピアノで表現する方法を探っていくことになるのかなとも思います。あくまで、私個人的な捉え方ですが、、、
これはやはりウィーン式アクションで弾く経験を持たねば見えない世界かなと思います。ちょっと触らせて頂いたことはあるけど、やはり扱いに慣れないためしっかり特徴掴めるよう弾くというところまでは未経験です。

交響曲第9番 ハ長調 D 944 「グレイト」
ミサ曲 第6番 変ホ長調 D 950 「Agnus Dei」
最後のピアノソナタ変ロ長調 D960 (1828年9月)のスケッチ
Tantum ergo in Es dur D 962 (1828年10月)
「鳩の便り」D 965 A(1828年10月)のスケッチ
「岩の上の羊飼い」D 965(1828年 10月)のスケッチ


シューベルトは眠っている間にもふと素晴らしいものが湧いてきた時にいつ何時でも五線紙に向かえるようにと眠る間もトレードマークの丸眼鏡をつけたまま睡眠をしていたそうな。

これらの自筆譜はオリジナルはウィーン市立図書館やウィーン楽友協会の資料室などに保管されていて、ここで見ることができるものは再現されたものではありますが、作曲者により作品が生み出されたホヤホヤの生状態を目にするのは作曲者の心がストレートに入ってくるようで心震える瞬間です。
ここに掲載したものは写真撮ってきたものですが、今の世の中便利というかすごいというか、シューベルトの自筆譜はオンラインでも検索して見ることができます。作曲者の筆跡や記し方で見えてくるものもあると思うのでとても興味深いです。

下記のサイトから自筆譜、初版、手紙が検索できます。
開いて右上に言語選べる場所あるので「EN」で英語になります。
Schubert-Online

入って一つ目のピアノ部屋はこの辺にしておいて、次回はシューベルトが最期を迎えたお部屋へとご案内したいと思います。

当時のピアノについての参考文献
シューベルトのピアノとピアノ演奏 (村田千尋著)
ピアノはいつピアノになったか?(伊東信宏 編、大阪大学出版会)